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ビブリオバトル 第3位【リカバリーフロア】

2025年4月10日(木)、ライフサポートクリニックのリカバリーフロアにて、恒例となったビブリオバトルが開催されました。今回も多くのメンバーが参加し、それぞれが自分の「心に残った一冊」を情熱的に紹介する場となりました。読書の楽しみを共有し合うこの企画は、参加者同士の理解や共感を深める大切な機会となっています。

今回は、同率で第3位となった2冊の作品をご紹介します。いずれも深い感動を呼び起こす作品であり、精神科の治療現場においても非常に示唆に富んだ選書でした。

まず一冊目は、**東野圭吾『手紙』**です。

『手紙』は、兄が強盗殺人を犯して服役しているという過去を背負いながら生きる主人公・直貴の苦悩と葛藤を描いた作品です。被害者遺族や社会からの厳しいまなざし、そして「加害者家族」という立場ゆえに背負う苦しみを、リアルかつ繊細に描写しています。直貴は兄から届く手紙を通じて、家族の絆と向き合うと同時に、自分の未来にどう向き合うかを模索していきます。

精神科の治療現場、とりわけ当院のように違法薬物使用やクレプトマニアなど、司法と深く関わる患者さんが多く通院する施設においては、この『手紙』が持つテーマ性は非常に重要です。刑罰を受けた本人だけでなく、その周囲の家族が背負う苦悩や、社会との断絶、再出発の難しさといった問題は、私たちが日々直面している課題そのものです。

『手紙』を読むことは、加害者家族の苦しみに想像力を持つきっかけとなり、他者への共感や社会的な偏見を乗り越える視点を養う助けになります。また、自分が犯してしまった行為が家族や周囲にどのような影響を及ぼすのかを、より具体的に実感するきっかけにもなるでしょう。そうした意味で、依存症からの回復を目指す人々にとって、『手紙』は単なる小説を超えた「自分と向き合う鏡」のような一冊となるのです。

そしてもう一冊は、**ダニエル・キース『アルジャーノンに花束を』**です。

本作は、知的障害を持つ主人公チャーリイ・ゴードンが、ある手術によって一時的に天才的な知能を得るものの、その後徐々に元の状態に戻っていくというプロセスを日記形式で描いた感動作です。人間の知能、尊厳、幸福とは何かを深く問いかける文学作品として、世界中で読み継がれています。

『アルジャーノンに花束を』は、精神科における「当事者視点」の重要性を再確認させてくれます。チャーリイが知的障害者としての生活を送り、知能が上がっていくことで得た新たな視点と、それに伴う孤独や疎外感、そして再び失われていく知能とともに感じる恐怖と絶望。そうした感情の繊細な描写は、疾患によって認知機能や社会性に困難を抱える患者さんが抱くであろう「内なる声」に通じるものがあります。

精神疾患や依存症の治療においては、症状そのものよりも「それによって何が失われるのか」「何を諦めなければならないのか」といった体験に目を向けることが極めて重要です。チャーリイの物語を通じて、読者は自分の人生における大切なものを再確認し、他者とのつながりの大切さを実感することができるでしょう。

今回のビブリオバトルでは、この2冊の紹介者がともに「人との関係」「社会とのつながり」「自己理解」というテーマを掲げ、それぞれの作品が与えてくれた気づきについて熱心に語ってくれました。参加者の多くが頷きながら耳を傾け、質疑応答の場面では活発な意見交換も行われました。

今後もライフサポートクリニックでは、こうした読書を通じたグループワークを継続的に実施していきます。読書は単なる娯楽ではなく、自己理解や他者理解の大きな手助けとなる力を持っています。次回のビブリオバトルもどうぞお楽しみに。

ブログ担当:スタッフH

~ライフサポート・クリニックは、性依存症・クレプトマニア・ギャンブル依存症・薬物依存症・アルコール依存症、放火癖(パイロマニア)をはじめとした依存症の専門治療に力を入れているメンタルクリニック(心療内科・精神科)です~ (豊島区・池袋駅C3出口より徒歩0分)

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