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物語でつながるリワークの時間 ─ 表現プログラム『初夏の夜の夢』(後編)

前編では、Aチームの物語をご紹介しました。 本日は、もうひとつの物─Bチームによる作品をお届けします。

同じテーマ「初夏の夜の夢」からスタートしながらも、Bチームの作品はまったく異なる風合いをもった物語に仕上がりました。メンバーそれぞれが描く“夜の夢”の世界が、重なり、広がり、ひとつの物語として立ち上がっていく様子は、まさに“ことばを介した対話”といえるかもしれません。

文章の筆致や登場人物の言動には、それぞれの個性や視点がにじみ、読むたびに発見がある作品になっています。今回も書き手が交代するたびに✦マークを入れていますので、どこで誰の視点が入ったのかを想像しながら楽しんでいただけたらと思います。

ひとつの作品を複数人でつくりあげる体験は、自己表現だけでなく「他者と共に創ること」の楽しさを再認識させてくれます。それはまさに、リワークという場で「社会とのつながり」を少しずつ取り戻していくプロセスにも通じています。

それでは、Bチームの物語をどうぞお楽しみください。

【チームB】
✦ 蒸し暑さを感じて、三時前に目が覚めたので、網戸を開けて外の空気を入れると、少し湿った風が心地よい。ついイーグルスの名曲「ホテルカリフォルニア」を聴き始める。
✦ 「暑いな…もうエアコン入れないと駄目かな。それにしても三時って、いわゆる丑三つ時じゃん…。まぁちょっと寝られそうにないし、マンション一階の自販機に、冷たい飲み物でも買いに行くか。」
✦ 一階に降り外に出ると、体を包む湿り気のある、心地よい風。あたりも静かで、眠っていた時の気持ち悪さを忘れるくらいだ。
✦ 心地よい風に乗せられて、明治時代には「利右衛門小路」と呼ばれた、細い風情のある通りを上って、山のある県境の方へと導かれる。草木たちは、ジュリアナ東京の中で横揺れしている若者たちのように、激しく葉音を立てて、静寂の中に、不気味さを感じさせた。
✦ ふと見上げると、満月が西の空に沈みつつあるのが見える。今、地球上でこの月を一緒に見ている人が幾人いるのだろう。後ろに気配を感じて振り返ると…。
✦ 「あれ?…田中君?田中君じゃないか?」見ると10mほど先に、侘しく光る電灯の光の下に、高校時代の同級生の田中君の姿があった。
「いや、そんな馬鹿な…そんな訳ない…」と言うのも、田中君は、進学した大学のある北海道で、10年前に不慮の事故で亡くなっていたからだった。
✦ 見間違いかと思い、怖さを感じつつも恐れ恐れ近寄ると、そこには田中君に似たパネルが置いてあった。どうやらこのあたりをPRするため、自治体と協力して作られたパネルらしい。満月が沈み始め、太陽が昇り始めた。さっきまで明かりがついていた電灯の光も、気がつけば消えていた。もう朝だ。
✦ 太陽の光を午前中に浴びると、セロトニンが出ると誰かが言っていた。まぶしさの中、うっすらと目を開けると空は真っ白だった。いつの間に横たわっていたのだろう?周囲を見渡していると、鳩時計がちょうど鳴った。午前三時だ。そして私は網戸を開け、外の空気を入れた。イーグルスの名曲「ホテルカリフォルニア」は、やっぱり良いな。

~ライフサポート・クリニックは、うつ・不眠・不安などの治療と共に、復職支援・発達障害・依存症の専門治療に力を入れているメンタルクリニック(心療内科・精神科)です~
(豊島区・池袋駅C3出口より徒歩0分)

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